2017年12月16日土曜日

【書籍推薦】ナチス政権下で敵勢音楽のジャズに熱狂する不良少年たちの群像 『スウイングしなけりゃ意味がない』

https://honto.jp/netstore/pd-book_28274600.html
1939年ナチス政権下のドイツ。軍需会社の経

営者を父親にもつ15歳の御曹司エディと、友人

たちが熱狂しているのは頽廃音楽と呼ばれるス

ウィングだ。だが音楽と恋に彩られた彼らの青

春にも、徐々に戦争が影を落としはじめる…。


この作品で特徴的なのは、「悪者」としてより「ダ

サい」存在としての反ナチス行動と、国際資本

主義の消費文化を享受する「申し子」として、反

戦とジャズに酔狂し、必死に生き残ろうとする主

人公の反骨ぶりとユーモアの精神だろう。



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■ジャズと戦史関連の推薦過去記事
 ● 映画 『永遠のジャンゴ』
 ● ノンフィクション 『レッド・プラトーン 14時間の死闘』
 ● ノンフィクション 『ヒトラーの原爆開発を阻止せよ』
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歳をごまかすお洒落をしてクラブで踊り、ジャズを聞き、奏でては

パーティーをしたり、秘密警察(ゲシュタポ)に追われたり、捕ま

ったり、強制労働させられたりしても、主人公は「ホット」な音楽を

求めてBBC放送を録音し、海賊版レコードを製造販売し続ける

など、 不合理で暴力的な政治がまかり通る時代にあって、心を

揺さぶられる(破天荒で享楽的だが)青春を過ごしていく。



著者の巻末解説によると、大都市の中産階級以上(今日でなら

富裕層だろう)の若者がスイング・ボーイズと言われ、ゲシュタポ

の調書に忌々しく書かれてあるとの一方、ジャズは戦線慰問で

は解禁だったなど、市民活動に根を張ってどうにもできないのが

実態だったとされている。



60年代のパンク・ロック・ムーブメントのように、生意気盛りの青年

にとって音楽は自己主張の手段だ。 海賊版レコードを密造する主

人公達の姿はまさにパンクのDIY精神(自分たちでやる。何だって

出来る)を彷彿とさせるし、強制労働させられるポーランド人などを

見ては、食事をきちんと与え、働かせて税金を納めてもらえるほうが

よほど国のためになるじゃないかと、主人公が考えるあたりも、同じ

く、パンク精神(反ファシズム政治)に通じるものを感じさせる。



各章の題名をジャズのタイトルにしているところも良い。特に主人公

の友人の祖母が半分ユダヤ人であることから始まる悲話を、「奇妙

な果実(Strange Fruit)」と題したところに著者の意気込みを感じる。

ビリー・ホリデイが歌ったアメリカ南部の黒人人種差別の叫びは国

境と時代を超え、作中で民族浄化への痛烈な批判となっている。
 


同曲の歌詞の一節を未聴の人のために引用しよう。

実に鮮烈な暗喩である。


カラスに啄ばまれる果実がここにある
雨に曝され、風に煽られ
日差しに腐り、木々に落ちる
奇妙で惨めな作物がここにある


ジャズを未だ聴いたことのないかたも、各題を検索して聴きつつ

本書を読んでみてはいかがだろうか。もちろん、今となっては国

家社会主義労働党(ナチス)が、どんな未来を目指していたのか

想像するしかないが、スウイングというブルーノートコードが持つ

米国発の反骨精神が、ハンブルクに住むドイツ人青年たちの心

を揺らし、自由と享楽を渇望する姿に繋がっていく本作品は、戦

争青春小説の新しい幕開けの一つになるだろう。

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