2016年11月27日日曜日

【洋楽雑感:舞台に求められる男のセクシーさと田舎臭さ】 ブライアン・アダムス『ゲット・アップ』



前回、カナダのコリンズ・ベイ刑務所の読書会の記事を書いたが

せっかくなので同じくカナダ繋がりのテーマで洋楽の話をしたい。


カナダのオンタリオ州キングストン出身が生んだロックン・ローラー

のブライアン・アダムスです。






第68回アカデミー賞歌曲賞、グラミー賞、母国カナダの最高栄誉

ジュノー賞は18回受賞の「殿堂入り」など等であるのだが、80年の

デビューから35年目、彼は今も、1年の1/3にあたる120日間はど

こかの国の舞台でギターを奏でるロッカーで(57歳で年寄り扱いは

ロックンローラーには厳禁ですよ!)在り続けている。


映画『三銃士』のテーマ曲で耳にした人も多いと思う。お気づきのと

おり、彼の甘いルックスは元より、歌声の「セクシー」さはリスナーを

数多く引きつけてきた。


2015年に発売された7年ぶりの新作アルバム『ゲット・アップ』からの

曲で『ブランド・ニュー・デイ』を紹介しましょう。






起きて 起きて 起きて 私の言うことを聞いて
目を覚まして 覚まして 覚まして
もっといい方法を見つけるの
起きて 起きて 起きて 真新しい一日がやってきたのよ
だから彼はどこかに行こうと東行きの貨物列車を止めた


普通、ソフトでセクシーな声質であるなら、ロックとしてあまり適合しない

と思えるかもしれないし、彼の曲は基本的に4/4拍子リズムでギターが

次々に刻んでいく古典的なアメリカ・ロックであるのだが、どうも「古臭い」

の一言では、片付けられない魅力を放っている。


まぁ聴いてのとおり、歌詞も「田舎臭い」カップルが悩む一幕である。


これは、才能、自己鍛錬、そして自信の為せる技(仕事達成の基本的要

素でもある)としか思えないし、逆に上記の演奏手法は今も新鮮さと即効

性を失わわず、リスナーにスリルさえ感じさせられるものということになる。

これが、ロックンロールということなのだろう。


彼は今も変わらず18歳の青春を生きるシンガー・ソングライターですね。


2016年11月26日土曜日

【書籍推薦:受刑者が夢中になるはクスリではなく読書会】 『プリズン・ブック・クラブ』



読書は、心の飢えを満たす行為だと思う

誰かも自分と同じように悩んでいる、あんなふうに生きたい、仕事や

人生の答えを探したい、笑って幸せになりたい、というふうにページ

をめくると、貴方の知らない「世界と人生」が貴方の前の前で何事か

を示唆してくれる。


http://honto.jp/netstore/pd-book_28008369.html



どれが好きっていうのではなくて、本を一冊読むたびに、自分のなか

の窓が開く感じなんだな。どの物語にも、それぞれきびしい状況が

描かれてるから、それを読むと自分の人生が細かいところまではっ

きり見えてくる。そんなふうに、これまで読んだ本全部がいまの自分

を作ってくれたし、人生の見方も教えてくれたんだ(p.122)


今回紹介する本は、「simple」読書会 大阪さんで出会った一冊なので

すが、カナダのコリンズ・ベイ刑務所に実際にある読書会の一年を追

ったノンフィクション『プリズン・ブック・クラブ』です。驚くなかれ、様々な

前歴を持つ受刑者が集まる刑務所のなかでの読書会なんです。


著者のアン・ウォームズリーは全米雑誌賞を4度受賞するなどの栄光

に輝くジャーナリストで、本書は著者が投資顧問会社の主任ライター

職を解雇されたあと、友人とのウォーキングで刑務所の読書会プロ

ジェクトに選書役として参加しないか、と誘われるところから始まる。


注目すべきは、読書会が刑務所の更正プログラムで強制参加している

ものではなく、受刑者の自由意思で参加するプログラムであることだ。

正直、私は服役者更正については門外漢だが、この作品を読んでいる

と読書には「更正」を助ける力があるのでは思えてくる。


彼らは、『怒りの葡萄』、『賢者の贈りもの』、『またの名をグレイス』など

の名作を通して、自らの喪失感や怒り、罪の意識について吐露したり、

作品に対する鋭い意見を投げたり、異なる意見の持ち主の話にも耳を

傾けるようになっていく。そればかりか、通路や体重測定の場で、課題

の本についてどう思ったか、 と話したりするのだやがて、仮釈放され

た者たちの中には社会更正施設で働きながらも地元図書館で読書会

への参加希望するものも現れる・・・・


これは、穏やかな性格で非常に調和を重んじるとされるカナダの国民

性も関係していて、他の国や社会環境ではそうはいかない、とする考

えもあるだろう。実際、作中でも囚人のトラブルで読書会が延期になっ

たりすることが語られる。


しかし、アリストテレスが言ったように「すべて人間は生まれながらにして

知らんことを欲す」(『形而上学』)だし、読書会の醍醐味は世界の見方や

意識を教える手伝いをしてくれることにある。彼らは正に、読書会に夢中

になりながら、少しずつながら「心の中で何かが」変化していったのだ。


本好きや読書会が好きな人には、充実の一冊になると思います。

  

2016年11月20日日曜日

【漫画推薦:洋画気分なニューヨーク・ブロンクスの警官物語】 オノ・ナツメ 『COPPERS』




この漫画の舞台はニューヨークのブロンクス区にあるニューヨーク市警

の51分署の警官たちの人間模様です。作品名のCOPPERSとは、警察

官を意味するスラングCOPPER(カッパー)の複数形で、由来は昔の警

察官の制服は銅(COPPER)のボタンであったためとされる。

作品は全2巻です。


尚、余談ですが、現代になって、この単語は短くなりCOP(コップ)になる。


http://honto.jp/netstore/pd-book_03056736.html

http://honto.jp/netstore/pd-book_03124403.html



作風はまるで洋画を見ているようなタッチの人間描写に、日本風の

刑事モノの文法を組み合わせた作品です。物語の始まりは51分署

長が入院し、警部補カッツェルが署長代理に就任した早々、篭城事

件の発生により主要登場人物の人間模様が動きだし、誰が誰でなく

あることを話し始める。


署長代理のカッツェルには新しい職務や任地に赴いた初日及び最終

日には何か騒ぎが起こる、というジンクスがあるらしい……。果たして

最終日にジンクスは起きるのか? また彼のジンクスの影には何が?


曇り時々晴れ、冬の寒さと雪、デリに集まる警察官たちの息遣いなど、

この作品は事件の扱いそのものよりも人間描写や独特の「間使い」に

あります。さながら、手触り感のあるようなアメリカントラディショナルな

雰囲気のタッチになっています。


デリのサンドイッチやドーナツも匂いが漂いそうな感じです。


万年ヒラの巡査だが街の皆から好かれているタイラーや独特のこだ

わりを持つ若手刑事のヴァル、仕事力はあるが悩める「乙女」である

女性巡査のモーリーン、エリートコースでありながら警部昇進試験に

一度落ちてから次を受けようとしないヴォス警部補など、個性豊かな

警官達がブロンクスの街角で物語を進めます。


覚悟は手に提げるもんじゃない 持ってたって見えない
ジンクスは周りが決めることじゃないわ。本人が決めることなの


秋の夜長、お茶をしながら洋画気分に浸れる一冊です。


2016年11月19日土曜日

【ライフエッセイ】 英国風散歩で見た東洋のブルックリンと食欲の秋

英国人は散歩好きとされるし、アリストテレスは弟子たちと散歩

しつつ、語らうことを好んだと言う。東洋医学では五感は五臓と

繋がっているとされる。天気の様子などを伺いながらゆっくりと

散歩すると心地良い疲れをもたらすことで心身が心地よく発達

し、機能するとのこと。


ともあれ、季節は散歩に相応しい秋です。


百年前に英国作家のE・M・フォスターが英国中産階級の願望は

「散文を詩」にと述べたそうですが、残念ながら僕にはポエムの才

能は無いので散文でお許し願いたい。

 
三井住友銀行のレトロ建築を望む
肥後橋の紅葉




このあたりの吹きぬける秋の風はモダン大阪らしくて好きです。

生きる芸術と言える、三井住友銀行のレトロな眺めのある土佐堀川

の界隈の息吹が「東洋のブルックリン」と想起させたくなるんですね。

フェスティバルビルの第二期工事が完成すると、更に歴史と現代が

交差する街になります。


靭公園の紅葉

靭公園の光の道



靭公園の静寂と紅葉も、また、良し。

木漏れ日のトンネルを見つける。心が和んできます。

散歩は五感の安らぎですね。






余談ながら、食欲の秋は百十デラックス。

なんばこめじるし、にて。

あれこれしゃべりながら、空腹を満たす。



2016年11月9日水曜日

【ライフエッセイ】丸福珈琲とかの名店コーヒーの薫りを倍にして楽しむための本『コーヒーが廻り世界史が廻る』

本棚の隙間で、これ、を、見つける。


臼井隆一郎『コーヒーが廻り世界史が廻る』(中公新書)


9世紀頃にイスラム神秘主義(スーフィズム)の秘薬として飲まれたと

される、コーヒーが時代を経て1652年・ロンドンに一軒の粗末な空間

として生まれたコーヒーハウスが次第に金融や言論と文化のセンター

となって世界史を廻しはじめた黄金期の華やかで青臭い前半部分。


第一次世界大戦にて敗色濃厚のドイツのコーヒーの背後にあった暗い

歴史(戦後は戦勝で潤沢にコーヒーハウスを味わえるはずが、戦後の

ドイツの現実は天文学的インフレと大衆文化主軸はビア・ホールであ

ったことと、若き日のあの独裁者は神経性の失明から奇跡的に回復

したことが記される後半部。


著者をして、かくしてコーヒーとは「近代市民社会の黒い血液」


ところで、この写真はどこの大阪のコーヒー屋さんでしょう?








正解は、丸福珈琲本店(写真上)、ALL DAY COFFEE (写真下)です。



お察しのとおり、近代市民社会の血液は、有名老舗である丸福珈琲と、伝

統的ドリップの末裔であるサードウェイブのコーヒースタンドになって生きて

おります。そんなことを、思いながら、熱い珈琲をすすってみるのも、また、

良しなのではないか、と僕は思いますよ。


鼻腔に入る薫りもまた、違った奥深いものになるかもしれない。
 
なぜなら、コーヒーを飲むことは「近代社会の黒い血液」を飲むことだから。



2016年11月6日日曜日

【洋楽雑感:洗練されたサザン・ロックアルバム】キングス・オブ・レオン最新アルバム『ウォールス』 

皆さんは、サザン・ロックという音楽ジャンルをご存知だろうか?


アメリカ南部のカントリーや、ブルース、ハードロックなどを土台に

した、いぶし銀の泥臭くパワフルなロックンロールのことで、洒落

っ気という意味においては、邦楽中心のリスナーさんには馴染み

薄いかもしれない。ただし、米南部の泥臭さや武骨さを知ることは

洋楽を聴くうえでの、ちょっとした「教養」になると思うのだが。



何故なら、ブルーズやカントリーは現代ポップ音楽の源流だから。



なお、ローリング・ストーンズや、レッド・ツェッペリンに似た音楽性

なのかという質問もあると思います。類似ないし影響を受けてはい

ますが、微妙な違いがあります。


サザン・ロック、特に今回紹介するキングス・オブ・レオンは、カレブ

の歌い方がシャウトではなくアメリカ南部の野太い男臭ささや、男の

哀愁を漂わせることと、演奏もギターサウンドの壁を作るより、単純

にドラムもベースもふくめ楽器一つ一つの音をラフに太く、少し重さ

を引きずったようなグルーブが彼らの特徴で、これが先のストーンズ

の南部感や、レッド・ツェッペリンの攻撃性との違いになります。






キングス・オブ・レオンは、アメリカ合衆国テネシー州ナッシュビル

出身の、カレブ・フォロウィル率いる3人兄弟と従兄で構成される

バンドで、第52回グラミー賞受賞に輝いているのだが日本での

知名度は「通好み」止まりのようなのが個人的には悔しいところで

あります(笑)



彼らはペンテコステ派の伝道者の息子で、幼少期からルーツ音楽

を初め、色々な音楽に接してきた背景を持つキングス・オブ・レオン

は、派手さはないが、本アルバムでは泥臭さ、キャッチーさ、ポップ

さを上手く混ぜているのが特徴です。


あのボブ・ディランも高く評価している、とされています。






最新作『ウォールス』の1stシングル『ウェスト・ア・モーメント』

青春っぽさ満載の歌詞に、ドライブ感満載のビート!

芯にある男臭さのある枯れた歌声!





「闘わないなんて男じゃない」、「欲望がなければ男じゃない」と

真っ直ぐな男気ある歌詞と、西海岸ロックの哀愁漂うバラードの

『WALLS』は叫び上げるだけがロックじゃないことを見事に証明

している。


CDジャケットのデザインはメンバーの顔を現代アート風にデザイン

したもので(悪趣味っぽさと言うのか)王道で古風なロックンロール

とは相当掛け離れていることだ。しかし、逆にこうであると決めるこ

と自体がロックじゃないし、過去作品という壁(ウォールス)を超えて

洗練されたポップさが調和したサザン・ロック・ナンバーを完成した

彼らの吹っ切れた心境が表れている気がする



幾多のピンチを乗り越えて、彼らは大した奴らだと思う。

2016年11月5日土曜日

【読書雑感:革命家と食欲のルーツを追い求めて】『辣の道 トウガラシ2500キロの道』




著者の加藤千洋氏は、朝日新聞編集委員、同志社大学大学院教授のほか

に、『報道ステーション』のコメンテーターなどを務めてきた経歴をもつ。

 
400年前、南米から中国に渡来して各地に伝わったトウガラシは地域にいか

に定着し、暮らしをどう変えたのか?四川省からのルートを追って大陸2500

キロ、さらに京都へ、東京へ脚を運ぶノンフィクションで、読むだけで額に汗が

流れそうになる一冊が、『辣の道 トウガラシ2500キロの道』です。


さて、問題です。この料理は何でしょうか?




紅白火鍋ですね


僕は神戸のある店で、初めて食べたたとき、思わぬデトックス効果に襲撃

されて、トイレを目指して悶えすぎた経験があります。この料理の真髄はこ

んなほどの「刺激と旨い辛いのエッセンス」であることを思い知らされました。


余談さておき著書の取材によりますと、1983年の秋のこと、重慶料理界の

長老である呉萬里さんは新しい火鍋を全国料理技術大会の出品前に、だ

れかに試食をしてもらおうと、北京在住の老幹部たちを呼ぶことを決める。

なんと、自ら現れたのは鄧小平だった!


ところかわって、日本。京都の先斗町にある戦後間もない開業の「おばん

ざい(お惣菜)」の店にて(文化人御用達のサロンでもあった)。ここのお品

書きのひとつに、万願寺甘とうの甘辛い炊きものがある。そしてこの店の

屏風にある即行の詩の筆をとったのは、司馬遼太郎さんとのこと!


「辣の道」(スパイス)を旅した気分になる一冊です。