2017年11月19日日曜日

【書籍感想】心と脳を育んで調整するマインドフルネスを俯瞰する 『図解 マインドフルネス』

https://honto.jp/netstore/pd-book_27904534.html
脳科学や臨床現場でも、マインドフルネスが心

身を整えて「いま、ここに集中する」ことや「スト

レス・コーピング」のメソッドとして効果があるこ

とが実証されてきていることは、ご存知の人も

おられると思う。最先端で有名な企業はグーグ

ルの『サーチ・インサイド・ユアセルフ』のプログ

ラムの他、米国政府機関でも導入されている。


本書は個人がマインドフルネスを実践するため

の図解本で、読みやすく実践しやすい一冊だ。









本来、マインドフルネスのメリット(効用)を一覧にすることは

意味のない行為と思う。愛情や幸せと同じで、細かく分析を

すると大切なものが見失う恐れがあるからです。しかし、イ

ンドで誕生した仏教と瞑想から、宗教性を取り除いて臨床

技法として誕生したマインドフルネスは、次のような効用が

あるとされています。
 
① 集中力が高くなる
② ストレス・コーピング(ストレスへの対処)が出来る
③ 心に余裕が出来る
④ 楽観的になる
⑤ 過去や未来に囚われれず、今を大切にする

















同書はマインドフルネスの格言として、道元禅師の「全体の

調和を保つことは、自信の欠点に対する不安をなくす」という

言葉を引用しています。雑念を評価するのではなく、呼吸に

意識を集中する瞑想を行うことで、自分自身の心身の変化

に「ありのままに気付く(アウェアネス)」過程が、人生で最も

重要な旅になるかもしれない、ということです。



近年の行動心理学の研究では、幸福が固定的特長(個人の

性格)とはほど遠く、マインドフルネスを実践している人はポ

ジティブな感状とつながる左前頭前野の動きが活発であるこ

とを証明しているとのことで、マインドフルネスが21世紀初頭

の革命の一つになっているこの状況は、人種や宗派に関係

なく、わたしたちの歪んだ認知や自分自身に対する思いやり

の欠如が作ってしまった「不自由さ」を抜け出す方法を誰もが

欲している世相を象徴していると思います。



個人的な見解でありますが、マインドフルネスは作曲家、歌

手及び詩人でもあるポーシャ・ネルソン氏の有名な『五つの

短い章からなる自叙伝』が心理学的に暗喩しているもの

換言するならば、自分自身の心理的な「癖」(認知と行

動の歪み)に自分自身が気付いて手放すまでのプロセス

のイメージに繋がるものがあると思います。



哲学的で味わい深いの面もあるのでで一部をご紹介します。



個人的感想ながら、僕もマインドフルネスを実践するなかで

この詩が言わんとしていることが、どうやらストレスと人生に

向き合っても、あるがままにリラックスして生きるためのヒント

なのでは、と思っています。


I walk down the same street.
私は同じ通りを歩く。
There is a deep hole in the sidewalk.
歩道に深い穴がある。
I see it is there.
それがあるのが見える。
I still fall in ... it's a habit ... but,
それでも私は落っこちる、・・・これは私の習癖(くせ)だ。
my eyes are open.
私の目は開いている。
I know where I am.
自分がどこにいるのかわかる。
It is my fault.
これは私のしたことだ。
I get out immediately.
すぐそこからでる。
 

2017年11月18日土曜日

【書籍推薦】アフガニスタン戦争最悪の戦闘前哨を生き抜いた兵士の記録 『レッド・プラトーン 14時間の死闘』

2009年10月3日の早朝、アフガン北辺の米軍の

戦闘前哨(COP)キーティングをタリバンの大部

隊が奇襲した。周到な襲撃計画と猛烈な銃火を

前に、米兵たちは全滅の危機に陥った。敵の奇

襲当時、レッド小隊(レッド・プラトーン)のセク

ション・リーダーとして防御の一翼を担ったクリン

トン・ロメシャ元陸軍二等軍曹(後に名誉勲章を

受章)が自ら筆を執り、アフガニスタン戦争史上

最悪の戦闘の真実を語る本作は、硝煙の臭い

を嗅ぐような筆力があり、息を飲むばかりです。









戦略の始祖たる孫子は、九変編のなかで、「将たるものが臨機

応変の運用に通じていなければ、たとい地形を掌握していたと

しても、地の利を生かすことができない」と、戦闘における地形の

重要さと理論と経験のバランスの大切さを喝破しているが、本書

の舞台である、戦闘前哨キーティングはあたりを高地に囲まれた

渓谷の低地という、戦術上あきらかに不利な地点にあり、米軍は

当初の段階から戦略的失態を犯していた






















戦闘前哨の兵舎内に誰かが書いた次の文字が、この場所の

最悪さを言い当てていた。


"いまよりマシにならないぜ(It doesn't get better)"


彼らは監視する側ではなく、監視され狙われる側だったのだ

また、戦闘前哨の防御設備も「穴」だらけで、著者などから強

化が進言されたが、まもなく戦闘前哨キーティングは廃棄され

るので、余計な予算と資源は投入不可能と、上官は意見具申

を却下した。



元・国防長官のロバート・マクナマラは、ご存知の人も多いと

思われるがMBA(経営学修士)ホルダーで、合理的・科学的

な手法による秀才ぶりを、政策でも発揮しようとしたベトナム

戦争にて、北ベトナム軍のナショナリズムがもたらす力を甘く

見て、敗北し、後に反省したことで有名だが、再びアメリカ軍

は度重なる派兵からくる疲弊などにより、アフガンの地で同じ

ような自らの甘さからくる失態をここに犯してしまった。



著者は、全滅寸前の戦いであったにも関わらず、感傷を抑え

ながら決して純粋無垢でも、当時活躍した特殊部隊のような

英雄(スーパーヒーロー)でもない、第61騎兵連隊第3偵察大

隊B中隊、特にレッド小隊の隊員たちを、アメリカの多様性の

縮図のように個々の個性(貧困から逃れたくて入隊、優秀な

下士官だが飲酒や、傲慢さが欠点なもの、些細な服務違反

をするのが好きなもの、防弾ベストの隙間にスポーツ雑誌や

ポルノ雑誌を隠し持つものなど)を描き、戦闘場面では哀調

と不屈の精神で心奪われる文章で描写しており、戦闘記録

文学における不屈の一冊になるだろう。



特に絶望的に不利な状況下にありながら、反撃のための部

隊を率先して編成し、拠点を奪還した著者の精神や、銃火の

なか戦死したメンバーの遺体回収に向かう兵士同士の絆は

目頭が熱くなるのを抑えられないし、先に述べた戦闘前哨の

配置ミスという戦略的失態をした上層部の醜態を突き抜けて

戦死者への最大級の賛辞と、墓碑銘へと昇華しており、あの

アフガニスタン戦争が一体何であったかを投げかけてきます。



本作品はソニー・ピクチャーズが映画化権を獲得して、監督や

プロデューサーに様々な名前が上がり出してます。この「カム

デシュの戦い」がどう映像化され、どのように鑑賞者の心へと

訴えかけるのか期待したいところです。

2017年11月12日日曜日

【書籍推薦】辺境の未承認国家ソマリランドで世界に挑むエリートを育てる驚異の実話 『ソマリランドからアメリカを超える』

元ファンドマネージャーの男が私財を投げ打って

挑んだのは、辺境の「未承認国家」ソマリランド

の学校創り。様々な顔ぶれのソマリ人生徒が集

まったこの学校は単なる初等教育ではなく、なん

んとハーバードやMIT(マサチューセッツ工科大

学)に進学しうる国際エリートを育成するための

進学校だった!

本書は、著者がソマリランドで経験した八年間の

教育投資への情熱と、その奇跡の記録です。







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■教育・読書関係の関連記事
 ●受刑者が夢中になるはクスリではなく読書会 『プリズン・ブック・クラブ』
 ●英国チャンネル諸島の人間賛歌 『ガーンジー島の読書会』
 ●人間の尊厳と生命の礎となった図書係り少女の物語『アウシュヴィッツの図書係り』
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想像してほしい。中近東のイスラム圏で、ましてイスラム教徒でも

ないアメリカ人がソマリランドの荒地に学校を作ろうとすると、一体

どうなるか。 地元の原理主義者の突き上げは無論のこと、学校の

乗っ取りを企む地元有力者や、営業妨害の風評を流す地元の私立

学校まで登場したり、著者が生徒募集のための調査で見たものは

受験生のカンニングの横行と学校行政側の黙認や、イスラム圏で

のジェンダー配慮など数知れず。



しかし、著者は七転八倒の学校運営のすえ、不可能とされた夢を生

徒たちとわずか数年で実現していく。



近現代アジア史で、「辺境」からこのように教育がもたらす「階段」を

登った人物としては朴正煕(パク・チョンヒ)元韓国大統領の、師範

学校卒業、旧・満州国陸軍軍官学校首席卒業、旧・日本陸軍士官

留学、同卒業、という(当時の植民地統治の是非は別として)偉業

の経歴が思い起こされるが、同書に登場する若きソマリ人生徒たち

は、その歴史を髣髴とさせるかのごとく、勉学、スポーツ、地域奉仕

活動に取り組んで、ソマリ氏族の誇らしげな代表へと育っていく。



同書は、「知識がないのは光がないのと同じである」というソマリ族

のことわざ、を引用しているが、翻って日本を見るに、教育があるこ

とが「当たり前」で、教育が人間の尊厳や成長にとってどれほど重要

なのか逆に改めて痛感させられる一冊にもなっている。教育需要の

根底にあるのは「外の世界へ出るための飢え」に他ならないからだ。



もちろん、著者のジョナサン・スター氏の行動力、胆力も非常に素晴

しい。彼はヘッジ・ファンドの世界では輝ける功績を残すことはなかっ

たが、学部生のころから構想していた開発途上国における質の高い

教育サービスの提供を、「未承認国家」であるソマリランドで達成した

ことは、彼の教育への情熱もさることながら、未知なるフロンティアに

挑む投資家精神(リスクテイク)の賜物だろう。また、貧困の解消を目

指す国際NGO(非政府組織)が挑戦しつつも、思うように成果を出せ

ない現状も痛々しい。



世界中にはあらゆるイデオロギーで「反米」が存在するのが事実だが

本書を読むと、教育というフィルターを通してソマリランドといういまだ

知られざる国の内幕と、「反米」の一方で「憧れの国、米国」が今なお

あることを感じるだろう。人間や教育、若者たちの夢を考えてみるのに

お薦めの一冊です。

2017年11月11日土曜日

【漫画推薦】美人寡婦と高校球児のハートフルな食卓物語 『八雲さんは餌付けがしたい』

アパートにひとり暮らしをする、寡婦(未亡人)

の八雲柊子(やくも・しゅうこ)の趣味は、読書と

料理だが、誰にも言えない秘密があった。それ

はなんと、 隣の部屋に住む高校球児の大和翔

平(やまと・しょうへい)を密かに「餌づけ」するこ

とだった!

凄まじい食欲を誇る、男子高校生の胃袋に翻

弄される日々のなかで、料理をする柊子の心

は色を取り戻し、ふたりの不思議で微笑ましい

関係が織られていく---



年上女性と青少年の関係作品は、以前紹介し

ました『私の少年』では、ふたりの繊細で不可

思議な関係と情愛(と言うことにする)が主軸に

描かれてましたが、本作では思わずお腹がす

きそうになる料理の数々と主人公ふたりの心

温まる関係が描かれる「飯テロなギャグ漫画」

なのが特徴です。

思春期の食べる幸せってこうかと思わせる。









さて、寡婦(未亡人)がヒロインを務める漫画は高橋先

生の「めぞん一刻」が金字塔ですし、野球ではあだち充

先生の作品が輝いているのは言うまでもないなか、作

者の里美U氏は、食べ盛りの高校球児と料理上手な未

亡人という関係に、少々変わり者の脇役を適時混ぜて

話を展開させるという、ありそうでなかった市場を開拓

することで、過去の名作の圧力を回避しているところに

作者・里美U氏の胆力を感じる。



料理を扱った作品でありながら、グルメ系にはならずに

あくまで、「御飯を与える幸せ」「御飯与えられる幸せ」

の関係性に視点をあてており、青年誌ならではのお色

気ギャグ描写もあるが、あくまで料理が繋ぐ八雲さんと

大和くんのハートフルな「食卓関係」をメインにしてある

のが特徴で、ゆっくりと息抜きに読むには最適です。



ふたりの関係は決して「ラヴ」ではないのだろうけども

作中で、八雲さんが大和くんに「ある人」の姿をなんと

なく重ねるところや、大和くんの照れくさい表情にも注

目してほしい。何よりこの作品は人に何かを与える喜

びは、人に何かをもらう喜びよりも大きいという大切さ

を下敷きにした作品でもあるからです。


高校球児、大和くんの球児としての成長はどうなるか?


これからの連載で、ふたりがどんな食卓を織り成すのか

楽しみな作品です。

2017年11月4日土曜日

【書籍推薦】ノンフィクション・エッセイスト寺尾紗穂が見た日本統治時代のパラオの情景 『あのころのパラオをさがして』

著者の寺尾紗穂は、シンガーソングライター兼

エッセイストとして『評伝 川島芳子』で東大大学

院で修士号を取得(論文は後に文春新書で書

籍化)活動されている人で、本書は1920年から

終戦まで日本の統治下にあったパラオを、拾い

集めた証言をもとに、そこに暮らした日本人移

民民と現地島民の「日常」の視点から描き出す

作品で、研究書とエッセイの中間的な、「ノンフィ

クション・エッセイ」となっています。








司馬遼太郎が『坂の上の雲』で、帝国主義が悪であるという国際常識が

当時(明治・大正時代の国際政治下)は無く、そうした価値観が後世とは

まったく異なっていたことに留意するよう何度も述べているのは有名であ

るし、ヴェルサイユ条約の締結により、パラオが国際連盟の委託統治領

となってからは、「近代列強」としての「行政手腕を世界へ示すとき」として

日本が、まずは強く自らを意識したであろうことも想像に難くないと思う。 



著者は、自分自身が歴史学者でもないしノンフィクションライターであると

するには中途半端であるとしながらも、中嶋敦の作品を18年前に読んで

日本近代史の中で南洋がスルーされているのに大きな衝撃を受け、中嶋

敦が見た景色をこの目で見て、何かを感じてみたかった、と性急な善悪の

判断を抑えながら、「リサーチの思考」と「エッセイとしての感覚」のバランス

を取りつつ、「あのころのパラオ」の情景を様々な文献や聞き取り取材で真

摯に読み取ろうとしており、その情熱と行動力には感服させられる。



個人的な見解ですが、日本近代史におけるパラオのそれは、旧・満州、朝

鮮半島、台湾のそれと比べて、影が薄い気がします。繰り返しになりますが

司馬遼太郎の『坂の上の雲』で描写されるような明治期における少年の国

としての日本と、日英同盟を根拠に参戦し、「戦勝国入りした」第一次世界

大戦後の国家としての日本のメンタリティの違いが、「影の濃淡」のひとつ

の要素と思います。


一人の人間が、何かを愛するがゆえに、何かを言わないかも
しれないということ。とるにたりないような小さな事実でも、直接
触れなければ、こうだったんだよと教えてもらえなければ、なか
なか想像できないこと。(同書p.213)


この論点は、凡庸なようで鋭いと思う。戦争は生産性を伴わない行為で

あるが、政治の延長である以上は国家の野心と、国民の夢や希望が交

錯する時代は存在するし、「勝てば官軍」ではなかった場合に、人々の

心中で交差する感情を聞き取ろうとしても、正確に声なきものの声を代

弁しようとする、ノンフィクション・ライティングの使命を果たせないことが

十分にあり得ることを著者が自覚している一節だからです。



取材先で聞いた「支那の夜」を歌うパラオ人の声、愛憎混じる影……



かつて「楽園」と呼ばれ、日本人移民(沖縄人、朝鮮人もいた)と現地人

と織り成す暮らしが存在した島、パラオ。諸々の歴史的事実や人々の

感情が紡がれるルポが訴えかけてくるのは、親日国とされるパラオが

経験した「あのころのパラオ」のリアルさを身近に感じて欲しいとの熱意

と、日本へ帰国後に病死した中嶋敦へ、生き残った者たちの今の声を

届けようとの思いなのかもしれない。



戦中派が世を去って歴史の記憶が薄れる今こそ、広い世代に読んでほ

しい貴重なエピソードが詰まった一冊と思います。


2017年11月3日金曜日

【書籍推薦】開化期の函館の人々の心情を描く、群像時代小説 『鳳凰の船』

https://honto.jp/netstore/pd-book_28595095.html
開化期の日本を司馬遼太郎が、「少年の国、日

本」と表現し、不慣れながら、「国民」になった日

本人は、日本史上の最初の体験者として、その

新鮮さに高揚したとし、その痛々しいまでの高揚

感がわからなければ、この段階の歴史はわから

ないとしたが、本作は江戸から明治へ姿を変えて

いく北海道・函館を舞台に、その二つの時代の狭

間で生きた人々の思い--逡巡、悔恨、決意--を

見事な端正な文体で浮穴みみ氏は描いている。 







 


本書は磨きぬかれた五篇の短編時代小説集で、このような

短編集の場合、音楽で例えれば「遊び曲」な作品もあるもの

なのですが、全編力作で、かつ、切り詰めた文体で開発途上

の函館を、老いた洋船大工の情熱や、英国商人に仕えた女

性がほろ苦く自分の若いころを回想する話、北海道庁の初代

長官・岩村道俊の開拓への決然たる意思や、欧米式の土木

工学を学んだ下級役人が見た時代がもたらす悲哀などの様

々な人間ドラマの視点を通して描いており、 目裏にじんとくる

読了感があります。



正に短編時代小説の醍醐味と手本、と言ったところでしょうか。



著者の浮穴みみ氏は北海道出身で、平成30年には北海道が

命名150周年になり、胸中に色々な思いが交錯するなか執筆

したであろうことと思います。開墾者精神、西洋式教育で変化

する日本人の心の機微、新天地に夢を抱くも時代の流れに翻

弄されるヨーロッパ人の悲哀など、司馬先生とは異なる視点で

あの「痛々しいまでの高揚感」の時代を生きて「豊穣なる大地」

の礎となった明治人の姿が訴えかけてくるかのような作品です。


2017年10月29日日曜日

【書籍推薦】教師の親友になったのは生き残りを助けたペンギンだった 『人生を変えてくれたペンギン 海辺で君を見つけた日』

https://honto.jp/netstore/pd-book_28228730.html
舞台は1970年代のアルゼンチンで、寄宿学校の

教員募集の広告記事を見て応募した、イングラ

ンド南部の農村生まれで、旧英国植民地出身の

両親を持つトム・ミッチェル氏は、幼少期から動

物と自然への愛と、未知なる国への好奇心を育

んできた。

ある夜、ウルグアイの海岸で偶然にもタンカーの

石油流出事故で苦しんでいたペンギンを彼は助

け、寄宿学校の屋上で暮らすようにしたことから

心温まる日々が始まっていく……






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【動物/自然系ノンフィクションの過去記事】
 ●『ジャングルの極限レースを走った犬 アーサー
 ●『羊飼いの暮らし』
 ●『社員をサーフィンに行かせよう
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絶妙の時代背景のなかで起こった、感動のノンフィクションと思う。

なにしろ、フォークランド紛争勃発前で、ファン・ペロン大統領政権

の下、殺人や誘拐は日常茶飯事、急激なインフレ経済、国民は秩

序を回復させるには軍部が動くしかないと思っているとされた状況

下のアルゼンチンで起こった、ひょうきんなペンギンと飼育に悪戦

苦闘する著者、そして学校の生徒達や、南米の大自然と「なんとも

おおらかでユーモラス」なストーリーの数々に微笑まざるを得ない。






このペンギンに『かもめのジョナサン』のスペイン語版『ファン・サル

バドール・ガビーダ』を思わず拝借し、ファン・サルバドールと命名

するくだりや、ペンギンが寄宿舎のプールを泳いだことをきっかけ

に、劣等感で苦悩する生徒が優等生に変化したくだりは、本書の

邦題『人生を変えてくれたペンギン』に相応しい。もちろん、ファン

・サルバドールは、ジョナサンのように人生の高みを目指して修行

に勤しんだりはしないが、仲間が大勢亡くなった石油流出事故を生

き延びて、先の見えない暗い時代に、著者だけでなく、周囲の人々

に心休まる時間を与えて、心のなかの何かを変えた意味では、癒し

系ペンギン版のジョナサンと言って良いだろうか。



著者は本職作家ではないので、決して技巧的文章ではありません

けども、ファン・サルバドールと過ごした日々を振り返る彼の眼差し

は実に優しく、動物と地球への愛情に満ちている人なのがありあり

と感じられます(著者は現在、農場経営と趣味で鳥の絵を描く日々

を過ごしているとのこと)。


水族館が好きな人、すべての自然を愛する人にお薦めの一冊です。